■イケ麺系 はりや(高松市)

(今回も小説風です)

あ、ども。僕、咲坂守といいます。仕事は、普通のサラリーマンです。まぁなにが「普通」なのかって尋ねられても、よくわからないんですけれどね。
あのぉ、僕、2回目なんです「はりや」。うどん通のI沼くんに教えてもらって初めて行ったときは「かしわざる」っていうのを食べたんです。鶏のからあげとざるうどんがセットになってるんですけどね。その時にね、からあげが先に来て、うどんが少し遅れますって言われたんですね。そしたらお店の人が「ごめんねぇ」ってすごく優しい笑顔で言ってくれて、そのうえ「これでちょっと食べてくれてもええよ」って天つゆを出してくれたんです。
普通「かしわざる」に天つゆは付かないみたいなんですけど、わざわざ出してくれたんです。僕って普段あまり人に優しくされることってないじゃないですか。だからそれだけでもうすごい恐縮しちゃって、すいませんすいませんって何回も言っちゃいました。
いつも後から思うんですけど、こんな時に笑顔で「ありがとう!」ってはっきり言える人間であればなぁって…。ほんとにもう自分がイヤになっちゃいますよ。
あぁごめんなさい。誰も僕のグチなんか聞きたくないですよね。あ、うどんはその後すぐに来ました。なんかよけい申し訳なくって、天つゆまで全部飲んじゃいました。

ここのうどんですけどね、すごいんですよ。つやつや輝いてましてね。お箸で持った感じも口に入れた感じも、すごくしなやかで軽い感じなんですね。でもこれが噛むと強い弾力があって、口の中でプリップリッと踊るんですよ。なんていうかなぁ、繊細さと力強さを合わせ持つっていうんでしょうかね。僕なんかには縁遠い形容詞ですよねはははは。
最初ここのご主人を見た時に想像した麺とは違いましたね。だってね、ここのご主人、若くてすごく体格が良くて、腕なんかびっくりするぐらい太くて逞しいんですよ。まさに「剛腕」って感じですね。だから太く重くガッチリした固コシ系の麺を想像したんですけど、これはいい意味で裏切られましたよ。見た目とは違ってかなり神経の細やかな人なんだなって思いました。僕ってすぐに見た目や先入観だけで判断してしまってよく失敗するんです。だから仕事も失敗ばかりでいつまでも出世できないのかな、なんて。
あ、ごめんなさい、またグチになっちゃいましたね。僕の話しって、陰気くさいですか?

今日は12時すぎにお店に着きました。やっぱり行列だなぁ。ここはカウンターだけなので、食べてる人の後ろにみんなズラッと並んで待つんですよね。
今日はね、カレーうどんを食べようと思って来たんですよ。この店の近くに住んでるうちのお客さんがね「はりやはカレーうどんがうまいんや」って言ってたから、次来る時はカレーうどんにしようって決めてたんです。
でも…、こうして待ってる間、誰もカレーうどん食べないんですよ。次々と席に着く僕の前の人もみんなかしわざるか天ざるかいかざるを注文してるんです。
僕、なんだか心細くなってきちゃいました。なんで誰もカレーうどんを注文しないんだろ?やっぱりカレーうどんみたいなものは邪道なのかな?この場でカレーうどんなんかを注文したら「なんだあいつ、うどんの素人め」みたいな目で店の人やこの場にいるお客さんみんなに白い目で見られるんじゃないかな?そんなふうにどんどん不安になってきてしまって、ドキドキして冷たい汗まで出て来る始末です。

ほんと僕って、気が弱いというか、小心者っていうか、もうほんとに情けないです。周りに惑わされず、自分の信念を貫ける強い人間なら、こんなことで迷ったりしないんでしょうね。はぁ…。それにね、この忙しい時間帯、全部のお客さんがざる系の注文だから、僕なんかがカレーうどんを注文すると、僕の分だけ鍋でカレーダシを作らないといけないじゃないですか。いまのこの厨房の流れを乱してしまうから、それが申し訳なくて。

ええ、別に僕がそこまで気を遣う必要ないってあなたおっしゃるんでしょ?もう、あなたに言われなくてもわかってますよそんなことは。
でも…あぁだめだ、やっぱり今日はカレーを頼めないよ、もういいや、今日もかしわざるにしよう。だって僕だけ目立つのはやだもん。あ、次は僕の分の席が空くぞ。

「カレーうどんね!」
「はいよ!カレーいっちょう!」
ああっ!向こうの人がカレーうどんを注文したぞ!!はぁ〜よかったぁ。カレーうどんを食べてもいいんだぁ!

「はい、なんにします?」
「カレーうどんお願いします」
「はいよ。ふつうでいい?」
「あ、ふつうでいいです」
「はぁいカレーひとつでぇす!」

や、やったあ!カレーうどんを頼んだぞ!よかったぁ。ありがとう向こうのおっちゃん!今日、僕がはりやのカレーうどんを食べられるのはあなたのおかげです!

目の前に出てきたカレーうどんは、なんかすっごく可愛らしいなぁ。10センチ四方のお揚げさんが乗っていて、白い蒲鉾がちょこんと行儀良くそのとなりに並んでいます。綺麗に刻まれ緑鮮やかなネギが手前側の一角にパラパラと散らされてて、そして一番目を引くのがその並びに同じように散らされている赤い福神漬けです。
茶色、白、緑、赤。まるで可愛らしいケーキのようにトッピングされてて、見た目だけでもなんとなく「若いご主人の新世代さぬきうどん」を感じさせますね、これは。さてと…食べよっと♪ズッズッズ〜ッ♪

おほ…これは…カレーうどんになっても…あの強いコシは健在だぞ…うん…それにモッチリ感も出て…んは…やっぱりこれは…さぬきでしか食べられないカレーうどんだぁ。カレーだしはどちらかというとまろやか系かな。元祖五右衛門と鶴丸のカレーうどんの中間に位置する感じ。お、でもあと味が甘いな。どれ、お揚げはどうかな…ん、こ、これはちょっと甘すぎるかも…う〜ん。肉はスライスしたタイプだな…こ、これもちょっと甘いなあ。食べてるうちに揚げと肉の甘さがダシにしみ出て全体が甘くなってくるな。ちょっと甘過ぎるかなぁ、って思いながらも、なぜかダシもゴクゴクいってしまう。福神漬けのシャキシャキした歯ごたえがアクセントになって楽しいな。最後のほうになっても麺はしっかりしてる。やっぱここのうどんは強いわ。
はぁ、でもやっぱりスパイシーだから汗が出てきちゃったよ。ハンカチで汗を拭きつつ食べていると、おばちゃんが「これつこてー」ってティッシュの箱を渡してくれた。
あぁやっぱり親切だなぁこのお店は。ちゃんと僕のこと見ててくれたんだ。なんだかおばちゃんがお袋みたいに見えてしまう。
「あっ、ありがとう」
よし!今日はちゃんとお礼が言えたぞ!ティッシュで口元を拭いながら、なんだかすごく幸せな気分でダシの最後の一滴まで飲み干して丼を置きました。

「はりや」は、もうすこし甘味を押さえてくれたほうが僕の好みに合うみたいです。ざるのつけダシも甘味の強い系統ですね。でも…この甘みが疲れた体と頭にしみわたるのであります。元気出るよ!

ほかの食べ物に関しても、四国は西に行けば行くほど甘い味付けが強くなる傾向があるようです。愛媛県なんかは、一般家庭での調理においての砂糖、みりんの使用量は、関西では考えられないくらい多いみたいですね。「はりや」のうどんを食べてて、そんな事を思いました。でもこの甘く優しい味は、時々ふっと思い出して食べたくなるんだと思います。ほかの店にない、優しい味を持ってるんですね。

体育会系、いま風のイケメン店主の作るうどんは、強さを持ちながら、意外にもみんなを優しく包み込むように仕上げてありました。

《追伸》
「はりや」は度々再訪しています。地元高松のお客さんにも「はりや好き」と言う人は多い。でも「あの行列がメゲる」との声も…。国分寺在住のうどん通T田さんに聞いたところ、はりやのイケメン店主は「源内」(本店さぬき市、はりやの近く高松市に支店あり)出身とのこと。さっそく「源内」を訪問し、ここでも人気メニューのカレーうどんを注文。やはり!ここにも福神漬けが!カマボコ、あげのトッピングのレイアウトや、トロリと濃厚でスパイシーながらも甘味も強いカレーだしの方向性はほぼ同じ。やはり「はりや」は源内系だったんだなぁ。しかし麺の弾力と粘り、カレーだしの風味は「はりや」の方が好きかも。


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